私がこれまで鉄道会社でやってきたこと~鉄道会社の社員から大学の先生へ

社会安全学部 安全マネジメント学科 吉田裕 教授

 学生時代は土木工学を専攻していたのでJRへは技術系社員として採用され、入社後は線路のメンテナンスいわゆる保線業務に従事しておりました。線路内の作業は「列車と作業員が接触する」というリスクがあるため、線路内での作業が少しでも減るような材料開発を行っていました。その一例ですが、分岐器の転換を容易にするローラー床板というものを開発しました。これまでは定期的に作業員が危険のともなう線路内に入って油を塗っていましたが、このローラー床板により油を塗る作業が不要となり、列車に接触するリスクがなくなります。現在では、わたしが勤めていたJRのほか、関西の民鉄数社でも使用されていると伺っています。おかげさまで、特許も取得することができました。開発を通じてモノ作りの喜びというものを味わうことができました。
 福知山線列車事故が発生した翌年の2006年、事故の反省により鉄道の安全に関する研究所がJRの社内に作られました。二度とこのような事故を繰り返さないためにも、私は希望して安全研究所の研究員になりました。研究所では、これまで行ってきた目に見えるモノ作りとは大きく異なり、決して目には見えない人の心の中に関する研究を主に2つ行ってきました。
 一つ目は上司と部下との人間関係に関する研究です。上司と部下との人間関係が良好で且つ互いに信頼し合えると部下はモノが言いやすくなり、事故に繋がると思われる危険な情報などが職場内で共有されやすくなります。事故を未然に防ぐためにも、上司と部下との人間関係はとても重要なのです。
 二つ目は異常時に遭遇した乗客の心理状態に関する研究です。いまから約50年前に福井県の北陸トンネルという全長約14キロのトンネルの中で発生した列車火災時における乗客の避難行動を分析しました。この研究では、異常時に遭遇した乗客の不安感を少しでも取り除くためにはどのような設備が必要であるかといったハード対策のほか、情報の提供や乗務員の行動といったソフト対策も明らかにしました。事故防止というより事故や災害が起こった際、如何に被害を軽減させるか、いわゆる減災につながる研究であります。
 なお、研究の成果は2018年にミネルヴァ書房より出版された『鉄道トンネル火災事故の検証』という本に取りまとめました。

関連キーワード

保線業務/分岐器/ローラー床板/乗客の心理状態/トンネル火災事故

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吉田裕

ヨシダユタカ

社会安全学部 安全マネジメント学科 教授

1972年東京都生まれ。1995年、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)に入社後、保線の現業職場や軌道材料の技術開発等を経験。2023年、関西大学社会安全学部・教授となる。

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