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「人にやさしい」医療材料・機器の開発をめざす、KUMP(関大メディカルポリマー)研究の挑戦

関西大学の化学生命工学部 化学・物質工学科と、システム理工学部 機械工学科が開発をめざす医療用の高分子材料と医療機器、それが「関大メディカルポリマー(KUMP)」です。KUMPについて、研究代表者である大矢裕一先生にご紹介いただきました。

未来医療を創出するKUMP

そもそも、メディカルポリマーとはどういったものなのでしょうか?
「ポリマーとは、繊維に使われるポリエステルや、ポリ袋の材料となるポリエチレンのような高分子化合物の総称です。そのポリマーを医療用材料として特別に設計したのが、メディカルポリマーです」
関西大学で作られた独自のメディカルポリマーを主体に、患者さんの体にやさしく、医師や看護師にとって扱いやすい、そんな「人にやさしい」医療材料・機器の開発をめざすのがKUMPの取組なのだと、大矢先生は言います。関大のメディカルポリマーが実用化されれば、患者さんと医療従事者の双方の負担を軽くでき、医療事故が減るなど医療の質の向上にも大きく貢献すると期待されています。

KUMPの取組が進められた背景には、日本が抱える高齢化や医療費高騰などの問題があります。
「意外かもしれませんが、日本の医療機器のほとんどは輸入品です。それが医療費総額を押し上げる一因となっており、間接的に国民の経済的負担を増やしています」
関西大学が得意とする「ものづくり」の力を生かし、低価格で高品質・高性能な医用器材の開発ができれば、国民の負担が減るだけでなく、世界に向けてメイド・イン・ジャパンの品質を届けることも可能になります。さらに、大矢先生は操作の簡便性にもこだわりたいといいます。そうすれば、十分な医療体制が整っていない国や地域の医療にも貢献できると考えているのです。

垣根を超えた医工連携が研究を促進

KUMPの取組は、2016年度の私立大学研究ブランディング事業に採択された、「『人に届く』関大メディカルポリマーによる未来医療の創出」と題したプロジェクトが継続・発展したものです。
このプロジェクトの大きな特徴といえるのが、新しい医工連携の体制です。プロジェクトを開始するにあたり、大矢先生たちが製品化に一歩でも近づくために考えたのが、医療現場との連携でした。白羽の矢を立てたのが、関西大学と2003年に学術交流・医工連携に関する協定を締結していた大阪医科大学(2021年4月より大阪医科薬科大学に統合)の臨床医の先生方です。さらに、化学・物質工学科の大矢先生たちが作るメディカルポリマーを材料とした道具や装置などの医用器材を開発するために、関西大学の機械工学科の先生方にも声をかけました。こうして、臨床医からのニーズに基づき、材料化学者が医療材料となるポリマーを設計・合成し、機械工学者がそれをもとにデバイス化・システム化するという連携体制が整えられ、研究が進められたのです。

KUMP紹介

「人に届く」関大メディカルポリマーによる未来医療の創出 紹介動画

公開日:2017年03月30日

関大の理工系研究を牽引するKUMP

大学・学科を横断した医工連携によって研究が行われ、今や関西大学の一つのブランドとなったKUMP。研究を進めるうえで、「応用展開をめざす一方、その基盤となり得る基礎研究にも精力的に取り組むことも大事だ」と大矢先生は語ります。
例えば、応用研究では、体の中で溶液状態からゼリー状に形を変えるポリマーを使って、手術後の臓器同士のくっつきを防ぐ癒着防止材の開発や、これまで大がかりな装置や長時間の拘束が必要だった緑内障や血液循環系の検査が、持ち運びできて簡単・簡便に行える小型機器の開発などが行われています。
一方、基礎研究では、DNAをひものように使って好きな形に編み上げる「DNAオリガミ」という技術を生かして、医療分野で役立つものが作れないか模索する研究などが進行中です。
これからもますます目が離せないKUMP。この取組に参加していた先生方の、KUMPの研究にとどまらない魅力が発見できる動画は、こちらからご覧いただけます。

【応用研究】

【基礎研究】

【KUMP研究紹介】

KUMP研究トピックス

公開日:2021年07月23日

研究とともに得られた最大の資産は「人」

2020年度にブランディング事業の採択期間を終えたKUMPの取組は、現在どうなっているのでしょうか?
「これまでの研究成果を製品として形にしたいという目標はぶれません。医療分野での製品化には時間とお金がかかりますが、治験を行い、製品化までこぎつけたい。そのためには、企業の方から魅力的で、ビジネスとして成り立つと思ってもらうことが必要です」
2021年4月、「関大メディカルポリマー研究センター(KUMP-RC)」が設立され、大矢先生をはじめ、KUMPのプロジェクトで進めてきたさまざまな研究は、今、次のステージへと向かおうとしています。

最後に、KUMPの取組で、大矢先生が良かったと思われることをお聞きしました。
「研究も進み、さらに研究者間のネットワークができたことと、人材育成の場になったことでしょうか」
2018年度に開催した国際シンポジウムは評判も良く、海外の研究者との交流も進んだと振り返ります。また、大阪医科薬科大学の先生方とは、若い世代の先生方も加わって共同研究を行ったり、一緒に論文を書いたりと、中身の濃い交流ができており、着実に成果が出ていると、大矢先生は手応えを語ります。
一方、2017年度~2020年度にプロジェクトで雇用していた2名の若手研究者は、研究成果を積極的に発表してきたことなどが功を奏し、学外の機関で正規のポジションを獲得できたといいます。医工連携を担う若手研究者を育てながら、関大発の「人にやさしい」医療材料・機器が世界の医療現場で活躍する日をめざして、大矢先生たちの挑戦は続きます。

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